作者:広樹水葉
静冈银土本 2016年冬号 P106-115
“哈!?感冒!?”
东京站的一角响起了一个十分古怪的声音。
周围的路人虽然侧目看了一眼,但见银发少年手里拿着手机,很快便失去了兴趣,继续走开。
而那位少年,坂田银时,却完全没有意识到自己刚刚引起了一瞬的关注,仍对着通话口滔滔不绝地喊着:
“才不是在撒谎呢!三个人同时感冒?根本不可能!再说了,笨蛋才不会感冒吧!”
“金时,按你那套理论,那就只有你一个是笨蛋啦。哈哈哈……啊,咳咳咳啊——咳得停不下来啊——”
“骗人啦啊啊啊!明明笑得好好的嘛!还有,我是银时!”
手里握着手机、几乎要跺脚大喊的他,平日里被人评价为“死鱼眼”,是个总被传说用“麻烦”来应付一切的慵懒大学生。而他今天如此激动,自然是有充分理由的。
因为今天,原本要和他一起去日归旅行的三位朋友,突然说自己感冒了——而且明显是假装的。
银时正要对那个假装干咳的家伙再喊几句时,电话那头传来动静,换了另外一个人接话:
“别对病人嚷得这么大声啊,银时。总之我们全都发高烧了。真遗憾,不过你就自己去享受吧。”
“享受个屁啊!喂高杉,你这是……”“银时!”
“假发!你没感冒吧?笨蛋不是吗!?”
接连换了电话的恶友们,让银时质问:“你们都高烧了,干嘛还聚在一起?”然而,最后接电话的第三人干脆不理银时的质问。
“我不是笨蛋哦,是桂。银时好好听着——无论在旅途中看到多么可爱的肉球,也不要随意喂食,这违反礼仪。要避免打扰当地居民……”
“吵死啦啊啊啊!”
银时终于忍不住,切断通话,差点把手机狠狠摔在地上。
可恶,他们到底在搞什么鬼。银时一边咒骂,一边听到背后传来的声音,吓得猛地转过身。
“等等,近藤!喂总悟,山崎!?你们在想什么……”
刚才还像银时一样对着手机大喊的,是同学土方十四郎。
银时看着电话被挂掉、呆站一旁的土方,心里涌起不详的预感,小心翼翼地开口:
“嗨——土方君?朋友们呢?大猩猩、S王子还有吉米在哪?”
“嗯?他们会来吧?不会像你那三笨蛋一样全员感冒临时取消吧?”
“哈!?三笨蛋?你不会是……”
土方抬起头,看见银时的表情,顿时全明白了,表情立刻愕然。
“……不会来吗?”
“……你也一样?”
两人简短确认后,同时抱头:“不可能吧啊啊啊!?”
这……完全是作秀,简直是故意的吧!银时抓着银白卷发在脑内翻滚着心绪。
大学四年冬天。毕业论文已交,大学生活所剩无几,这次的日归旅行计划才被提上日程。原本是他们四个死党一起的计划,但辰马提议:“快毕业了,不如顺便叫其他人一起吧”,于是剣道部的四人也被邀请。
银时暗自欢喜——因为他一直暗恋剣道部副队长土方十四郎。同性之情,他从未向人倾诉,但似乎死党们早已看穿。银时心中难得地感激,想着或许是他们为了自己……然而今天的局面,到底是怎么回事?
声明一下,这绝不是“让两人单独相处,银时加油!”的鼓励作战。绝对不是。绝对是报复。银时心里很清楚。
银时与土方,本质上是势不两立的关系。两人都倔强又不坦率,容易争执。原本若有其他人缓冲可以避免冲突,但两人单独行动,肯定会吵架。原本期待的日归旅行,可能因为小事陷入恶劣氛围,早早结束。这些死党们,显然是乐于看他们吃苦头的。
(可恶……不会让你们得逞的)
在脑内痛骂三笨蛋一通后,银时抬起头,决定积极面对。若消沉,就完全中了他们的计。相反,要把它当作机会。没错,只想积极思考——这是约会。和土方的初次约会。
“那、那就走吧?”
“……走吗?”
初次约会,连第一步都没踏出去就宣告结束。银时鼓起勇气开口,却被土方皱着脸回问,心瞬间碎掉。
理所当然,土方的反应完全可预料。
况且这次目的地,不是男生单独出行的理想景点——
——热海。
浪花声仿佛在耳边响起,银时望向远方,陷入沉思。
从东京出发可日归、桂和冲田想泡温泉、辰马和近藤坚持去海边、高杉神秘推荐静冈……最终目的地定在热海。
银时心中怒火再起:你们自己决定去处,却把我们扔在这里,这是怎么回事!
银时完全没有调查景点信息,他才意识到,死党们是因为他什么都不准备而生气,才想出这阴险的恶作剧。自己也有责任,但方式太阴险了。
他们一定会躲在一边看我沮丧,然后嘲笑。
(可恶……绝不会如你们所愿)
深吸一口气,银时决定振作。落泪只会让他们得意,正面思考——这是和土方的约会。
“那、那就走吧。”
两人尴尬地指向闸口,土方也略显僵硬地点头,终于开始行动。银时偷偷瞥向旁边,轻轻呼出一口气。
——能和土方两人日归旅行,单是这个事实就足以让银时高兴。
只祈祷途中不要吵架就好。银时不知道的是,土方心里也在默默祈祷同样的事。
从东京站出发约一小时半,奇迹般地没吵架,两人顺利抵达热海。
“……那?热海有什么出名的?”
“……温泉?”
“这我也知道。”
出闸后两人茫然站着,不知去向。意外的是,土方也没有提前做功课。
“近藤很积极,就托他安排了。”土方尴尬地说。
“我也是差不多的情况。”银时随口回应。
“先去吃饭吧。”
正值午餐时分,两人走进车站前的大众食堂。选店原则简单——菜单价格便宜,学生钱包有限。
坐下翻开菜单,看到标有“推荐”的海鲜丼照片。
“哦,这看起来很好吃。”
“有这个钱吗?”
土方提醒,银时皱眉。虽然是大众食堂,但“海之宝石箱”价格不低。想吃,但太贵。
“那吃玉子丼吧,更配蛋黄酱。”
“好啦好啦,蛋黄酱星人闭嘴。”
土方指着菜单里最便宜的玉子丼,银时冷冷回敬。他想吃海鲜,不想被土方用“更配蛋黄酱”说服。
“真可怜啊,连味道都不懂。”
“可怜的是玉子丼啊,好不容易做得美味,却被改成黄色怪物X。”
银时盯着海鲜丼照片,听到土方不满的语气,猛地抬头:
(完蛋了!)
原本打算不吵架,结果又口不择言。土方皱眉盯着他,银时焦急想修正局面。
这时服务员端上热茶。
“咦?不是冷水,是绿茶?”银时惊讶,土方也看着手中汤碗赞叹:
“……真绿。”
“哈?”
土方喝了一口,皱眉道:“啊,没什么特别的。”银时挠头苦笑。
“高杉总说茶不是绿的,是黄的,我一直没理会。”
“但这次真的很绿。”银时仔细看茶,第一次理解高杉的意思——浓郁而美丽的绿色。
土方歪着头问高杉是否出身静冈。虽然不知道那家伙的出身,但总觉得好像是来自西面。
“外婆家在静冈吗?”
“是吗?”
“不知道,随便。”
“随便吗?”
没多想就把台词说了出来,土方“噗”地一下绷不住脸笑了。 面对这难得冲自己露出的柔和笑脸,银时一下子愣住了 。
土方指菜单:“来吧,海鲜丼和玉子丼各点一份。”
“啊,要分着吃?好啊!”
两人分享海鲜丼和玉子丼,价格与食量都合适。银时赶紧叫服务员下单,并提醒要两只分餐碟。土方疑惑:“……真的需要吗?”
“嗯?这样你就能随意加蛋黄酱了。”
土方愣了愣,轻声说:“……谢谢。”
耳尖微红。
险些闹僵的局面成功逆转。银时半无意识地举起茶碗吸了一口——
啊,好茶啊。
两人没查景点,午餐后前往土方从山崎处得知可日归入浴的温泉酒店。
边走边聊“海鲜丼好吃,但玉子丼也不错”,终于到达大型酒店。土方略显担忧地去问前台,银时却被某样东西吸引,脚步停下。
“土方!”
“啊?怎么了,你也听说明了吗?!”
银时把刚买的瓶装茶递给土方,土方疑惑地眯眼看:“这……茶?不是水吗?”
瓶上写着“深蒸茶”,但看起来就像水,瓶盖形状也怪。
银时指向说明:“拧开盖子,绿茶粉落入水里,摇匀就能泡出新茶。”
“哈!?啥啊——?”
土方惊愕,盯着瓶子。银时拧开盖,绿粉落入水中溶解。
“好厉害——这是什么啊!”
“银时,摇匀,让绿茶充分混合!”
“交给我吧!右臂发威——嗷啊啊啊!”
摇晃产生泡沫后,两人喝了一口,惊呼:“……绿!”
从未在瓶装茶见过的浓绿色,让银时和土方相视大笑。
静冈真不愧是茶之国!有了这个,高杉也会满意吧……
两人笑闹,却未注意到六双眼睛在远处注视。
“他们笑得真开心啊,哈哈哈。”
“我本以为能看到土方先生在暗处生闷气呢。”
酒店大堂里,想躲在观叶植物后的辰马没完全藏好,豪爽大笑;旁边冲田吹着泡泡糖。
“土方和银时两个人意外地相处得挺好啊。”
“仲良きことは美しき哉(相亲相爱真美好)吧,可能是遇到流浪猫的肉球,两人心情都放松了。”
假病取消旅行的六人,提前在酒店埋伏。让银时和土方单独行动,既是恶作剧,也带着半分好意。四年来,他们一直看着两人的单恋状态,半嘲讽半鼓励地安排了这次旅行。
“不过土方先生笑得真少见啊,还喊‘绿!’,这是怎么回事?”
山崎歪着头看,两旁高杉小声道:“用茶叶泡的和用粉冲的,完全不同。”
“嗯?”
高杉一口喝下深蒸茶,轻轻笑了。
离看到死党们,只剩最后一分钟了。
下附原文:
「はあ!? 風邪!?」
東京駅の一角にすっとんきような声が響く。
周囲の通行人たちは歩きながらチラリと目を遣ったものの、銀髪の若者がスマホを手にしている姿にすぐに興味を失つて通り過ぎていった。
当の若者、坂田銀時は、己が一瞬注目を浴びた事にも気付かぬ様子で通話口に向かってまくしたてている。
「嘘ついてんじやねーよ!三人同時に風邪なわけあるか!そもそもバカは風邪ひかねーだろーが!」
『金時、その理論だとおまんだけがバカつちゆうことになるぜよ。アッハッハ·······あつ、げほつごほつ あー咳が止まらんぜよー』
「嘘つけエエエエ!元気いっぱい笑ってんじやねーか!あと俺は銀時な!」
スマホを構えながら地団駄を踏まんばかりの勢いで怒鳴る彼は、普段は「死んだ魚のような目をしている」と評される気だるい大学生だ。あらゆる事を「めんどくせえ」の一言で片付けてしまうと噂の銀時がこれほどエキサイトしてい
るのには、もちろん充分なワケがある。
今日、まさにこれから日帰り旅行にいくはずだった友人が三人、急に風邪をひいたと言い出したのである。それも明らかすぎるほど明らかな仮病だ。
わざとらしい空咳をする男へ更に怒鳴ろうとすれば、何やら物音がして別の人間が電話に出た。
『病人にデケェ声でがなるんじやねーよ銀時イ。そんなわけで俺たちは全員高熱だ。残念で堪らねェが、テメェだけでも楽しんでくるんだな』
「楽しめるかア!オイ高杉、テメェ何のつもり······」『銀時』
「ヅラ! テメェは風邪なんかひかねーよな? バカだもんな!?」
次々と電話を変わる悪友どもに「全員高熱ならなんでテメーら一緒にいるんだ」と詰問するも、最後に電話を取った三人目は銀時の言葉などサラリと聞き流した。
『バカじゃない桂だ。いいか銀時よく聞け-旅先でどんな愛らしい肉球を見つけても、無闇に餌をやるのはマナー違反だ。その地域にお住まいの皆樣の迷惑にならぬよう······』「うるせエエェエエ!」
プチッ。堪忍袋の緒が切れると同時に通話も切って、スマホを地面に叩きつけたくなるのを必死に堪える。
くそ、なんなんだアイツら。意味不明な事態にイライラしながら吐き捨てていると、背後から聞こえた声に銀時は驚いて振り返った。
「ちよつ待てよ近藤さん!オイ総悟、山崎!? テメーら何考えて·······ツ」
つい先程までの銀時とまるで同じ様子でスマホに怒鳴つているのは、学友の土方十四郎だ。
通話を切られてしまったらしい電話を見詰めて呆然と佇む男へ、銀時は嫌な予感を覚えながら恐る恐る声をかけた。·······ひーじかーたくーん?オトモダチは? ゴリラとサド王子とジミーくんはどこにいんの?」
.···········」
「え?来るよね?来るんだよね?こっちの三バカトリオみてーに全員風邪でドタキャンとかアホなこと言い出
したりしてないよね?」
「はア!? 三バカってお前、まさか········」
引き攣った銀時の声に弾かれたように顏を上げた土方は、こちらの顔を見てすべてを察したらしくみるみるうちに愕然たる表情になる。
「·······来ねェのか?」
······そつちも?」
互いに端的な言葉で確認して、二人は描って頭を抱えた。「「嘘だろオオ才オ!?」」
何コレ、ものっそ作為的なものを感じるんですけど!ていうか絶対わざとだよねコレェ!銀時は銀髪天然パーマの髪を搔き回しながら内心でのたうちまわる。
大学四年の冬。なんやかんやで卒論も提出して大学生活も残り僅かとなったところで今回の日帰り旅行の計画は持ち上がった。当初はいつもつるんでいる悪友四人で、という話だつたのだが、「もうすぐ卒業じやし、せっかくじやから他のヤツらも誘ってみんか」と辰馬が剣道部の四人に声をかけた時、銀時は胸中で密かに快哉を叫んだものだ。
何故なら、銀時は剣道部副主将の土方十四郎に、こっそりひっそり絶賛片想い中だからである。
同性だからと銀時は自分の片想いを人に相談する事はなかったけれど、どうやら悪友どもにはバレているらしい。アイツらひよつとして俺のために、と銀時は珍しく感謝すら覚えたといらのに-今日のこの事態は一体どういら事だ。
念のために言っておくが、コレは決して「二人つきりにしてあげよ☆ 銀時ガンバレ!」的な激励作戦ではない。絶対違う。絶対嫌がらせだ。銀時にはその確信がある。
銀時と土方は、銀時自身の内心とは裏腹に犬猿の仲となつている。双方ともに素直じゃない上に意地を張り合う質なものだから何かとぶつかりやすいのだ。グループで遊びに行くなら他の人間が緩衝材になってくれるはずだが、二人きりなんてすぐに喧嘩になるに決まっている。楽しみだった日帰り旅行なのに、些細な事で言い争いになって険悪な雰囲気で早々にサョナラする未来が見える。あの悪友どもはそんな俺の姿を楽しむつもりなのだと銀時は歯ぎしりした。
(くそ······つ、アイツらの思い通りになって堪るかよ)
脳内でひとしきり三バカを罵倒してから決然と顔を上げる。ここで落ち込んでいてはアイツらの思うツボだ。逆にチャンスだと考えよう。そうだポジティブなことだけ考えろ銀時。これはデート。土方と初デートだ。
「と、とりあえず、行くか?」
······行くのか?」
ハイ、初デート、第一歩を踏み出す間もなく終了しました。思いきって声をかけてみたら顰め面の土方に問い返されて、銀時のハートはアッサリ砕け散った。
そりゃそうか。土方のこの反応は充分に予想できたものだと打ちひしがれる。
犬猿の仲というだけでなく、そもそも今回の目的地は男子学生が二人きりで遊びに行くというのには選ばれ難そうな観光地だ。
-熱海である。
ザパアアァン。寄せては返す波の幻聴が聞こえて銀時は遠い目をした。
東京から電車で日帰りできる範囲というのと、温泉に入りたいという桂と沖田の希望と、海だろ海!という辰馬と近藤の強い主張と、伊豆か熱海か三保の松原か掛川花鳥園か浜名湖、という高杉の謎の静岡推しによって決定した目的地。
アイツら自分の好みで行き先決めといて俺たちだけ放り出すとかどういう事なの、と銀時は改めて腹を立てた。
計画を三バカに任せきりにしていた銀時は、熱海に一体どんな観光スポットがあるのかも知らない。あ、そうかアイツら、何も準備しない俺に腹立ててこんな嫌がらせを思いついたのか。悪質なイタズラの理由にやっと思い至って顔を引き攣らせる。そりや何もかも任せっぱなしにしていた自分も悪いかもしれないが、遣り方が陰湿だ。
土方とデート出来るかと思いきやサッサと解散になってへコむ俺を見て笑うつもりに違いない。どこかで隠れて見ているのかとキョロキョロしていると、しばし黙って何やら考えていた土方が不意に口を開いた。
「まあ、ここで解散すんのもなんか癩だし、行ってみるか」「へ!?」
·······んだ、行きたくねーなら」
「いやいや!そ、そうだな。バカどものせいで中止ってのも腹立つしな!」
予想外な台詞に思わず間抜けな声を上げてしまえば、また顔を顰められて銀時は慌てて首を振った。セーフ·······!待ち合わせ場所で即解散の危機は免れてひとまず胸を撫で下ろす。
「じや、い、行くか」
ぎこちなく改札方面を指差せば土方も若干ぎこちなく頷いて、彼らはようやくその場から歩き出した。チラチラと隣の顏を盗み見つつ、銀時はそっと息を吐く。
-土方と二人で日帰り旅行というのは、その事実だけを受け止めるなら素直に嬉しい。
願わくば、途中で険悪な雰囲気になりませんように。ただひたすらにそれを祈っていた銀時は、不自然にそっぽを向いている土方が胸の内でまったく同じ事を祈っているとは、知る由もなかった。
東京駅から約一時間半。奇跡的に大した喧嘩もせずに電車
内をやり過ごした二人は、無事に熱海の地に降り立った。
『·······で?熱海って何が有名なんだ」
「······温泉?」
「そのくらいは俺も知ってる」
改札を出るや否やどこへ行くべきか分からなくて立ち尽くす。意外な事に、土方も今回の日帰り旅行は何も下調べなどしていなかったらしい。なんか近藤さんが張り切ってたから任せてたんだよ、と気不味げに眩いた土方に、俺もそんな感じ、と銀時は無難な返事をした。
「とりあえずメシ食おうぜ」
時刻はちようどお昼時だ。空腹を思い出した二人は駅前の大衆食堂に入った。店選びのポイントは単純。店の前に出ていたお品書きの值段が安かったからだ。学生の懷は寂しいのである。
の席に着いてさっそくメニューを広げると、「オススメ」マークが付いた海鮮丼の写真が目に入った。
「お、コレうまそーだな」
「そんな金あんのか?」
··············」
土方に指摘されて銀時はぐぬぬと眉根を寄せる。良心的な価格の大衆食堂とは言っても、「海の宝石箱やあ」は流石にそこそこのお值段だ。だが食いたい。しかし高い。「玉子井にしたらどうだ。マヨに合うぞ」
「ハイハイ、マョネーズ星人は黙っててくんない」
メニューの中で最安值の丼を指差した土方には冷たく返す。玉子井の值段は確かに魅力的だが今は海鮮が食べたい。そもそも何にでもマヨかけるコイツに「マョに合う」と言われたところで全く心動かされない。
「チ······ツ、あの味が分かんねーとはつくづく可哀想な野郎だな」
「いや可哀想なのは玉子丼だからね。せっかく美味しく作ってもらったのに黄色い物体Xに変えられちまうとかさア」「アア?」
海鮮丼の写真を凝視していた銀時は、土方の不機嫌な声音を耳にしてハッと顏を上げた。
(L······しまったアアアア!)
今日は喧嘩しないようにと思っていたのに。普段息をするように口論しているものだから、ついうっかり突っかかるような言い方をしてしまった。土方は不機嫌そうに眉を顰めてこちらを睨んでいる。
ああ、いつものように此処から喧嘩になってしまうのか、なんとか軌道修正できないものかと焦っていると、ちょうど「いらつしやいませ」と近付いてきた店員がテープルに温かい湯飲みを置いた。
·······之、お冷やじやなくて緑茶が出てくんの? と驚いて湯吞みを手に取った銀時の向かいで、すげえな、さすが名産地だなと土方も眉間の皺を消してパチクリしている。
「······緑だ」
「は?」
湯吞みをき込んで思わず眩くと土方は怪訝そうな声を返した。あ、いや別に大したことじやねーんだけど。銀時は頭を搔いて苦笑する。
「高杉のヤツが、よく店で出てくる茶ア見て『黄色い』ってプツブツ言ってんだよな。緑茶のくせに緑じゃねーなんざ許せねェとか」
黄色っつーか黄緑だろ、と銀時が言っても「黄色い」と言つて聞かず、親の仇を見るよらな目で薄い緑茶を睨んでいるので、最近ではもう面倒になってサラリと受け流すよらにしているのだが。
「でもコレはすげー緑だな」
改めて手元に目を落として、なるほど高杉が言っていたのはこういう事かと銀時は初めて納得した。湯飲みに注がれた濃く美しい緑色。コレを見慣れているならば薄い色の茶を認められなかったのも分からないではない。
高杉って静岡出身だったのかと土方に問われて首を傾げる。アイツの出自など知ったことではないが、なんとなくもつと西の方だった気がするのだが。
「婆ちやんちが静岡とかなんじやね?」
「そうなのか?」
「いや知らねエ。適当」
「適当かよ」
深く考えずに台詞を吐けば、ふはっと土方が破顏した。珍しく自分に向けられた柔らかい笑顔に銀時は一瞬硬直する。
何がツボに入つたやら土方はひとしきり肩を震わせてか
ら、笑顏の名残を浮かべたままメニューを指差した。
「-なあ、海鮮井と玉子井、一つずつ頼んで······」
「あ、シェア? 乗った!」
海鮮井と玉子井を土方と半分こ。值段的にも食欲的にも願つてもない話だ。勢い込んで頷き、土方の気が変わらないうちに店員さんを呼んで注文する。去り際の店員さんに「できたら取り皿も二つ」と頼むと、土方はちょつと首を傾げた。「······取り皿いるか?」
テメェ直箸とか気にするタイプだったか。そう問われた銀時も逆に首を傾げる。
「へ?だって最初に取り分けちまった方がオメー好きなだけマヨかけられんだろ」
銀さんマヨまみれの海鮮丼とかゴメンだからね。そこまで言ってしまってから、あああまたマヨ貶しちまったと気付い
て銀時は青褪めたが、恐る恐る様子を窺えば土方は虚を衝かれた様子でこちらを凝視した後、視線を俯けて「·······あ、りがとよ」とボソボソと昡いた。
-その耳の端つこが、赤い。
逆転サョナラホームラン、さつき険悪になりかけた展開を見事に覆しました。
モミジのように染まった土方の耳に目を奪われながら、銀時は半ば無意識に湯吞みを持ち上げてズズッと啜った。
ああ、茶が旨い。
熱海の観光スポットを何も調べずに来てしまった二人だが、土方が山崎から日帰り入浴のできる温泉ホテルだけは聞いていたらしく、昼食後はそこに行く事になった。
海鮮丼すごかったけど玉子丼も旨かったよな、などと喋りながらぶらぶら歩いていくと、いかにも観光地らしい大きなホテルに着く。日帰り入浴なら予約無しで大丈夫って聞いたけどと若干不安そうにフロントに尋ねに行く土方の後ろで、
銀時は或る物に目が釘付けになって足を止めた。
·······土方!」
「あ?なんだよ。つーかオメーも說明聞けって······」「コレ見ろ!」
フロントで說明を聞き終えて戻ってきた土方に自販機で買ったばかりのペットボトルを突き出すと、彼は目の前に突き付けられた物に瞬きをして不審げに眉を顰めた。
「んだコレ、お茶·······?水じゃねーのか?」
パッケージには「深蒸し茶」と書いてあるが、中身はただの水にしか見えない。そしてキャツプが何だか縦に長い変な形だ。胡乱げな颜をする土方に銀時はパッケージの說明文を指差してみせる。
「これ、キャツプ捻ると緑茶の粉が落ちてきて、振って混ぜたら淹れたてのお茶になるらしいんだけど」
「は!? え、な·······はあ!?」
ぽかん、と口を開けた土方は、銀時が自販機でコレが並んでいるのを見付けた時と同じようにペットボトルに釘付けになった。とにかくやってみよう、銀時がキヤップを捻ると、
パキッと音がするとともにキャップの下の部分からブワッと緑色の粉が落ちて水に溶けていく。
「すげー—!なにコレなにコレ!」
「オイ坂田、振れ!緑を全体に行き渡らせろ!」
「まかせろ!うなれ俺の右腕·······つうおおおお!」
んだ。目を輝かせた土方に促されて高速シェイクを披露する。泡が立つほど振ってから、再びき込んだ二人は声をえて叫
「······緑!」」
ペットボトルのお茶では終ぞ見たことのないような濃い色のお茶に、銀時と土方は顏を見合わせて爆笑した。
静岡の本気やベえ、さすが茶の国!コレなら高杉も満足するんじやね?·······などと笑い騒ぐ二人は、離れたところから見詰める六対の瞳に気付かなかつた。
「いやあ、まつこと楽しそうじやのー。アッハッハ」
「なんでイ、旦那と喧嘩して陰で落ち込む土方さんが見られると思ったのに」
ホテルのロビーで観葉植物の陰に隠れようとして隠れきれていないのはモジャモジャ天然パーマの辰馬だ。豪快に笑う彼の隣では、沖田がつまらなそうに風船ガムを膨らませている。
「トシと銀時、二人だけだと意外と仲良くやるんだなー」「仲良きことは美しき哉だ。大方、駅前で野良の肉球にでも出会って二人とも心安らかなんだろう」
意外そうながらも嬉しそうに近藤が言えば、その横で鷹揚に頷いた桂はまだ肉球にこだわっている。
仮病で日帰り旅行をドタキャンした六人は、山崎が土方に教えておいたホテルに先回りして彼らを待ち伏せしていた。
銀時と土方を二人きりにしたのは、悪意からであると同時に好意からでもある。四年間の大学生活でずつと彼らの両片想い状態を見せられてきた友人たちは、揶揄半分応援半分で今回の日帰り旅行を計画したのであった。
ホテルへやってきた彼らがあれほど楽しそらに笑っているとは少々予想外だったが、それを良かったと思うかつまらないと思うかは六人の中でも別れるらしい。
「でもホント、あんな笑ってる土方さん珍しいですね。なんか、緑?とか叫んでましたけど、何の話だろ」
山崎が二人を眺めながら首を傾げると、その背後でソファに腰掛けている高杉がぼそりと口を開く。
······茶葉で淹れたのと、粉ア溶かした茶はまた別モンなん
だよ」
「はい?」
「まあ、これも悪くはねェがな」
よく聞こえなかったらしく聞き返した山崎のことは完全に無視して、高杉は手にしたペットボトルから一口、深蒸し茶を飲んで口端を緩めた。
緑茶の話に花を咲かせながら歩いてきた二人が悪友たちの姿を見付けるまで、あと一分というところであった。